自分に合った治療院とは何でしょう? 「まず治るかどうかだよ!」「治療が効くか効かないか、それだけだよ!」という声が聴こえてきそうですが…
私が鍼灸師になったきっかけ、鍼灸との出会いは、母が通勤途中に追突され、ムチウチになったことでした。
小学校低学年だった私には、ムチウチの大変さは正直分かっていませんでしたが、母の言葉を借りて説明するなら「人生に絶望する」ほどのきつさ、だったそうです。繰り返しそういっていたのを今も覚えています。
ムチウチになって、最初は整形外科を受診しましたが治らず、そこから母はいくつもの治療院を行脚しました。整体、整骨院、マッサージ…良い評判を聞けば試していました。
その当時、ムチウチ患者はとても多かったらしく、母の同僚にもムチウチになった方がいて、その方から聞いた大分県中津市の鍼灸院が最後の頼みの綱でした。
中津は、住んでいた家から、車で片道2時間。
目が見えないながらも、その先生はゴッドハンドと言われるかたで、先生の治療を受けたいと、母のような患者が近県から押し寄せていたそうです。民家ばかりの普通の住宅地なのに、他県ナンバーの車がいっぱい。駐車場に困るような状態でした。
母は、どこに行っても治らなかったムチウチを、数回の鍼灸治療で治してもらったことから、鍼灸治療にいたく感動して、扁桃腺炎で熱を出していた私と弟も治療に連れて行ってくれました。
朝四時起きして。
朝六時に、ゴッドハンドの鍼灸院に着いたときには、すでに何人もの方が順番とりをしていて、実際に私が治療を受けたのは午後3時でした。治療に行くだけで、丸一日かかっていたのです。
■ 患者数は先生の技術の証明になる?
病院は、病院ごとに治療法が違いますか? そんなことはありませんね。どこ行っても同じような検査をして、同じような治療をされて、同じような薬を処方されます。
お医者さん同士で治療に関する情報を共有していて、研究も進み、この病気はこういう風に治療する…という形が出来ているからです。
どこの病院に行っても同じ治療法だとしても、「●●大の教授」とか、「年間●●例の手術を執刀」といった先生を「すごい」と思って、その先生に手術してほしいと思います。
先生の腕前って、すごく気になります。
先生の腕前、どこが見分けるポイントなのでしょうか?
意外かもしれませんが、まず「何万人を治療した!」と聞いて、すぐに飛びつかないことが、大事かもしれません。
病院に来る患者さんの数は、すごい数です。でも治療した数が治っている数と一緒ではありません。まず保険がきいて「安い」から、「薬がもらえるから」、とりあえず病院にいき、検査を受けるという方が多いので、数が多くなるのです。
「膝の専門家で、プロのバレリーナをこれまで1000人手術してきた」というように、専門性と治療してきた患者さんの数がセットで表現されていると、信頼性が全く違います。
もっと言うなら、ただ手術した数ではなく、「復帰させてきた数」の方がいいです。「再起不能と言われた12人のバレリーナをプロの第一線に復帰させてきた」となると、数はぐっと減っていますが、リアリティが違います。
あなたが治療を受ける目的が、あなたがずっとテニスを習っていて、ひざを痛めてしまったけれど、これからも一生テニスを楽しんでいきたいというのであれば、こういう先生に手術してもらうと、今後10年の過ごし方がまったく違ったものになって来るでしょう。
■ 「××専門」をうたう治療院はすごい?
では、なにか専門性を謳っている治療院は安心でしょうか?
たとえばパーキンソン病など、一般に治らないと言われている病気があります。そんな疾患の患者さんを一人治したという場合、普通ならたった一人という人数を言うことはできません。ところが、たった一例しか治してないのに、「パーキンソン病専門」と宣伝している治療院もありうるのです。
医療の国家資格者は、広告が規制されているので、そんな広告は「法律で禁止されている」ことに当てはまるのですが、実は医療機関とは言えない医療機関があります。整体です。整体は「無資格治療家」なので、広告に違反しても、取り上げるべき免許がありません。なんでも言いたい放題です。(最近、社会問題化してきてます)
病院の広告はどこも似たようなな感じですが、院の名前と診療科、電話番号と営業時間と所在地くらいしか書いてないのは、それ以外のことを書くことが禁止されているからなのです。
整骨院(接骨院)や鍼灸院、あんま・マッサージ・指圧師は国家資格なので、病院ほどではないですが、やっぱり規制されます。
でも専門性はやはり大事。同じ整形外科医でも、ひざが得意な先生と、手が得意な先生がいます。
手も足も、それぞれに、ものすごく構造は複雑だからです。
そこを証明するのが病院でいうなら「専門医」認定や、「●●学会」…循環器や糖尿病など専門家会の会員という称号です。
「内科ならどこでも一緒だろう」というのではなく、専門医認定を受けているか見ておくのは大事です。
ちなみにうちは、「身体のメンテナンス専門」なのですが、それにもちょっと理由がありまして…
■ ムチウチは治ったものの
大分県中津市のゴッドハンド鍼灸師のおかげで、母のムチウチは治ったのですが、その先生がある予言をしたんです。
「あなたは将来リウマチになるかもしれないから、自宅でお灸を続けなさい」
そして母はそれから数年後、本当にリウマチになってしまったんです。
もし、その治療院が遠くなければ。
もし、母がフルタイムで働く公務員でなければ。
もし、家族がもっと母の身体を気遣っていさえすれば。
母はお灸を続けられたかもしれません。
中津市までは遠いけど、治療を受けに通い続けられたかもしれません。
でも母は4人の子供を持つワーママで、仕事が大好きで、生きがいで、自宅でお灸を続けることも、鍼灸治療を受け続けることも、当時の母には難しかったのです。
母はもう70代なのですが、いまでも時々リウマチの症状が出ます。
幸い、骨が変形することはなかったのですが、私が高校生くらいのときは、すごい高熱を頻繁に出していました。たとえ骨が曲がらなくても、リウマチの熱と痛みってすさまじいんです。
今でも「母があのとき治療を続けられていたら!」と思います。
自分のことより、自分の身近な人間が苦しんでいるのを、ただ見てるしかないってきついんですよね…。とくに自分の母親が苦しんでいる姿を見てきたことは、私たち兄弟に影響を与えたみたいで、姉弟四人そろって医療系の仕事に進んだのはその影響だったのかもしれません。
そもそもムチウチの前から、母は身体を酷使しがちでした。
手は冬になるとアカギレになっていたし、いつも肩こり腰痛には悩んでいました。休みがない母親業に加え、フルタイムの仕事ですから、慢性的な過労です。
ワーママ仲間の情報で、良いという噂を聞くと、色んな治療院に行ったりもしていましたが、そんなにきっちり通えていたわけではなく。
「仕事が好き」が口癖だったので、健康だったら、もっと楽しんで仕事に打ち込むことができただろうなとも思います。
そんな母を見てきたので、働く女性にとって通いやすい、身体のメンテナンスができる治療院をやりたいと思ってきました。
土日診療で、予約制で、短時間で効果的な身体のケアができる治療院。
男性患者も同じくらい多いので、女性専門とはしていませんが、当院は、働く人が身体をメンテナンスするためというのが目的の治療院なので、身体のメンテナンス専門治療院としました。
ひざ痛を治す、五十肩を治すというのももちろん大事なことです。
鍼灸治療に出会う方は、最初は何かのお悩み解決がきっかけですから。
でも、悩みが解決したらそれで治療終わり…じゃなく、そこからは「身体をもっといい状態に」変えていくスタートなんですよね。
当院は、専門性の専門じゃなく、からだのこと、メンテナンスして、もっと楽しく生活してね!という意味で、メンテナンスが主ですよ~と言っているのです。
■ 自分に合った治療院の見つけかた
上記に書いたような経験から、独断と偏見で言います。
あなたに合う治療院は、あなたの家または職場(学校)から、「通いやすい」です。
通いにくいところは、どれだけ良い治療院でもあなたに合う治療院ではありません。
あなたがその治療院に通うために引っ越したいほど、良い治療院でない限り。
次に診療時間。
あなたに合う治療院は、あなたが「この時間だと都合がいい」時間に開いています。
あなたが深夜2時にしか時間が取れないという人であれば、「たまたま」深夜2時に開いている治療院が、あなたに合った治療院です。
治療費ですが、どなたにも一月に健康のために費やせる予算というものがあります。
月々の給料、保険代、歯医者代、花粉症の点鼻薬、目薬、美容院代、ネイル代…などなど、込々で×万円内という枠があります。
自分の予算として、月いくら出せるのか。まず計算してみることです。
そして、治療院のホームページを見れば、だいたいの治療費は分かります。
「ちょっと無理して月2回」「月4回くらい余裕」「月1回なら」
最初はきっと何かの治療のために治療院へ行こうとされているでしょうから、治すためなら、ボーナスを使いきるくらいの予算を考えておられる場合もあるでしょう。
でも、あんまり高額の治療は、やっぱり続けられず、途中で挫折してしまう率が高いのです。治しきらずに治療を止めてしまうほどもったいないことはありません。
「回数券が××万円。。。ボーナス月ならいけるけど、続けるの無理…かも」と思うほど高い治療院はやっぱり考えものです。
治療は、長いと一年、二年とかかる場合があります。毎月の使える予算内で通えるところがいい治療院です。
一方、「安すぎ」も考えものという意見もあると思います。
一回500円!?
たまにこういう治療院もあるにはありますが、治療費を安くするということは、一人一人の患者さんに「コミットできない」原因になります。
本当にこれは独断で言いますが、月2回~4回ペースで、1年間通い続けられるところが、あなたに合った治療院です。
総じて、「あなたに合う治療院」と言ったとき、「通い続けられる」かどうかが一番のポイントです。
治療は絶対に「一回では治りません」し、それに、良い先生とせっかく巡り合ったとして、ワンポイントのかかわりで縁が切れてしまうのはもったいないです。
治療院に通うとは、「健康アドバイザー」を抱えるってことです。
顧問弁護士とか、コーチ、コンサルを雇うみたいに、健康について何でも相談できる、“主治医”と呼ぶのがふさわしいかた。
長期で関係を築くのが無理な治療院に通うくらいなら、他にもっと自分に合った治療院を探しに行きましょう。
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PROFILE
山崎 美穂 やまさきみほ
鍼灸師(国家資格 はり師+きゅう師)
「元気があればなんでもできる」と言いますがひっくり返せば「やりたいと思うことができないのは元気がないから」
子どもの頃、働く母親の背中を見て育つ中、どれだけ忙しくても続けられる治療院があったらな…と思ったことがきっかけで、気付けば自分が治療家になっていました。
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