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  • 山崎 美穂

鍼灸は、鍼が届かぬ深部の病にどう対処しているか?

皆さん、コリを皮膚の上から触ったことがあるでしょう。


親御さんの肩を揉んだりして、「お父さんの肩、ガッチンガッチンだねぇ」という会話をしたことがあるかもしれません。


そのコリは、海に浮かぶ島のように、指先で輪郭をたどることができたかもしれません。


その経験から、コリとは、「実体」があるものだと思っていることでしょう。


鍼灸、ことに「鍼」とは、コリを取るためのものです。


その鍼が届かないほど身体の深いところにも、コリがあります。


今回は、そういったコリにどう対処するのか?という話です。

皆さんは、


「そもそも、鍼が届かない身体の深部」という言葉が、具体的に意味しているものが分からないことでしょう。


東洋医学には、「病の深さ」という概念があります。


病気は、「治れば治るほど」、病の深さが浅くなり、


病気が「悪化すれば悪化するほど」、身体の奥深くに潜る…と、そう考えます。


円柱状の人体の、一番深いところとは、具体的には、骨…脊柱です。


一番奥に脊柱があり、脊柱を枝に見たてると、枝になった木の実のように、内臓がぶら下がっています。


つまり、脊柱の一段上とは、内臓です。


そしてその上が筋肉。


一番表面、浅いところとは、皮膚を意味しています。


何かのたとえではなく、「浅い」「深い」とは具体的な、身体の構造の話なのです。


そのどこに病(コリ)がくっついているか、で、「この病気は重いぞ」とか、「治療が効いてきて、病が浅くなってきた」という判断をしているのです。


めっちゃ単純な話です。


単純すぎて、狐につままれた気分になります。

身体の深部は、言ってしまえば、こんな海のようなイメージです。


海水によって、直接見ることは叶いませんが、ごつごつした海底が骨です。


しかし、海底の上には、色々余計なものが載っているのです。


それがコリや老廃物です。


鍼灸治療は、「物理的に」そのコリや老廃物…海に例えるなら、海底にこびりついたカキとか、そういったものをこそぎとる治療です。


鍼とは、麻酔不要のメスです。


細く、極めて人体に害が少なく作られていますが、骨以外はこそぎとります。




こういった鍼の使い方をするのが、鍼灸の中でも「掃骨療法」という治療で、鍼灸業界の中でも、こういった治療ができる人は少数派です。


もっとはっきり言うと、滅多にいません。


掃骨療法をする鍼灸師は、骨にこびりついたコリや老廃物を、歯垢や歯石に例えます。


確かによく似ているのです。


最初老廃物は、垢くらいの柔らかいもので、骨にこびりついた後、次第に硬く変わっていき、白血球の手におえないサイズ、硬さに変わっていくと考えられています。


それが歯垢から歯石に変わっていくイメージに重なるのです。


深海に等しい身体の深部、骨にこびりついたコリ・老廃物を、指先の感覚だけで、鍼でこそぎ取っていく過程は、徹底的に慎重に行われます。


文字通り手探りだからです。


骨にこびりついた老廃物・コリだけが硬くなるわけではありません。


筋肉、筋膜にこびりついたコリも、異様な硬さになることがあります。


というか、全身あらゆるところに、コリはこびりつきます。




…となると、以前、私が、このブログに「コリとは筋膜の癒着」と書いたことを覚えておられる方には、話が違うとお叱りを受けるかもしれません。


コリが筋膜の癒着であるというのは、実のところまだ仮説です。


ありふれたコリというものすら、まだ科学的に十分解明されてはいないのです。


しかし、私たちが痛覚を感じるのは筋膜・骨膜・関節の膜などの膜であり、筋肉や臓器、脳すら、痛みには疎いことが分かっています。


一つには筋膜など膜の皺。一つには骨にこびりつく老廃物。おそらく原料は漏出した血液など(すなわち東洋医学で言う瘀血)ではないか?と、これもまた推測にすぎません。


コリとは何か。それは、身体の深部、浅部を問わず、筋肉、内臓、骨、材質に依らず、どこに、どういう機序で発生したものであっても、材質の如何を問わず、「身体の生理機能を阻害するものおよび現象」である、と定義しなおしたいと思います。


鍼灸の外科的側面を、最大限に発揮する治療とは、掃骨療法です。


しかし、すべての骨、すべてのコリにアタックできるかというと、それは不可能です。


それでも、皆さんが想像する以上に、様々な筋肉にアプローチできます。


しかし、限界はあります。


そしてリスクも高いです。


ところで、鍼でガリガリとコリをこそぎとったとして、海底(体内)には、その削りカスが残るじゃないか?と思われることでしょう。


小さくなった削りカスは、白血球の貪食作用の対象です。


削った後は彼らに任せればOK。


コリは、鍼で直接ガリガリ削り取る以外にも、アプローチする方法があります。


ただしその方法は、直接鍼でアタックする場合に比べ、圧倒的に時間も手間も、経費もかかります。


実は、皮膚に浅く鍼を刺す、切皮という方法でも、上手にやれば、深部のコリを取ることができます。


やり方も、掃骨療法に比べれば、簡単かつ安全なやり方です。


治療時間・治療回数、そして治療費もかさみますが、これも良い方法です。




コリの上に浅く鍼を刺し、置鍼するという方法は、鍼灸治療の方法としてはメジャーな方です。


ただし、鍼の刺し方の浅い深い、刺す本数などは、流派、鍼灸師の考え方、患者さん自身の体質などによって、かなりのバリエーションがあります。


こちらの方法論を突き進め、極めたところにあるのが、手足末端のツボに浅く鍼を刺して置鍼する治療法…経絡による治療です。(かなり幅広く色んな流派があります)


皆さんがイメージする鍼灸は、大体こちらのタイプの鍼灸でしょう。


このタイプの弱点としては、比較的安全ではありますが、外せば全く効果は出ませんし、誤診すると副作用で患者さんにドッとしんどさが出ます。これを誤治と言います。


効果のあるモノは、どんなものであれ、副作用もつきもので、鍼灸も例外ではありません。




経絡による治療でなくとも、患部の表皮に浅く、たくさん鍼をするだけで、かなり効果はあります。鍼の本数や、刺し方の深さで、効果の大きさも変わります。




経絡的な治療から、掃骨療法まで、一人の鍼灸師が、どちらの治療法もできる、ということはほとんどありません。


いずれの方法も、身につけるにはかなりの修業が必要なので、あっちもこっちもと欲張っていたら、どっちも半端になりかねないから…というのもありますが、両者は考え方が違います。


この世には、鍼灸師の数だけ、違う鍼灸があると言っても過言ではありません。




驚嘆すべきは、私たちの身体です。


皮膚は最大の臓器ともいわれます。


腸でセロトニンなどの脳内物質や免疫物質を作っていることが分かって、一時フィーバーしていましたが、皮膚もまた、単に身体を覆っているだけでなく、免疫にも、精神にも関わる働きをしています。



身体の離れた部位同士であっても、細胞はお互いにフィードバックしあいます。


皮膚に浅く鍼をすることが、皮膚だけに限局されないで、身体の深部に影響を与えるということは、古来知られていましたが、まだ研究が進んでいないのです。


ただ有用であり、治療に利用されてきました。



過去、皆さんが捻挫したときのことを思い出してみてください。傷めた筋肉は身体の深部の皮膚の下にあるでしょう。でも、その患部の皮膚をさするだけで、次第に痛みが軽減した経験があることでしょう。


でも、次に捻挫するようなことがあったら、そのときは、その皮膚をさするのではなく、薄く、皮膚だけつまんでみてください。何度も繰り返して。あ、一番最初はアイシングからですよ。しっかりアイシングした後の話です。


さする以上に、そちらの方が痛みが素早くとれることを発見すると思います。



皮膚に浅く鍼をするだけで、なぜ深部の痛みが摂れるのか?


コリが表面に浮いてくるのか?


浮いてくるとして、どれくらいで浮いてくるのか?


皮膚に与える刺激はどれくらいが適切なのか?


皮膚ではなく、もう少し深部に鍼をした方が効果があるのではないか?



など、まだまだはっきりしないことが多いです。


だからこそ、鍼灸師の数だけ、鍼灸治療がある…というほど、治療の仕方が異なる結果になっているわけです。


人が、人を治そうと、真剣に努力した結果です。




鍼灸治療のバリエーションの広さと、人の身体のはまだまだ未知の機構が隠されているということが伝わると嬉しいです。


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