四十肩(五十肩)だと思って、一年間、鍼灸を受けたけど、治らず、当院にいらっしゃった患者さんがいました。
念のために病院で画像を撮ってきてもらったら、四十肩・五十肩ではなく、「腱板断裂」といって、肩をテーピングみたいに胴体に留めている、腱がちぎれかけていました。
でも、手術をせずに、たった3カ月で治りました。
この例と、当院が初診に2時間もかける理由について、読んでいただけたら幸いです。
病院で検査
「腱板断裂」は、ふつーに手術するやつです。
鍼灸学校でも、四十肩・五十肩だと思って治療していたら、腱板断裂ということがよくある、と。だから四十肩・五十肩を治療するときは気を付けて、と言われていました。
実は、肩にはそういう「要注意」のアラート事例みたいなのがあります。
たとえばですね、心臓疾患なのに、放散痛といって、肩に痛みが出てる場合があるんです。
心臓じゃなく、肩が代わりに痛む、みたいな。
だから、鍼灸師は、肩痛にはちょっと慎重になるんですよ。
最悪、国家資格をはく奪されるような、見落としだってありえるわけで。
というわけで、肩痛で、20回も鍼灸治療受けて、治らなかったというなら、そりゃおかしい。絶対病院で検査しなきゃ、ダメなんです。
とはいえ、鍼灸治療していいかどうか。鍼灸治療が「適応」か「適応じゃないか」というのは、鍼灸師には見分けがつかないんですね。
だから、当院では、重要事項説明書をつくって、「病院の方が検査力は上ですから、検査は病院で!」と、患者さんにお伝えしているわけです。
ま、それはそれとして。
「手術しましょう」
腱板断裂といっても、程度があります。
完全断裂といって、腱が完全に切れていたら、ほっといても治りません。
アキレスけん断裂って聞いたことあると思うんですが、あれ、ぶちっ!という、激しい音が、他の人にも聞こえるような音がすることがあるって話。
肩の周辺の腱は、アキレスけんほど大きくないのですが、腱が「完全に」切れる、完全断裂だったら、腕が動かないとかもありえます。
だから、完全断裂だったら、手術一択です。
この方は、ゴルフが趣味だったんですが、肩が上がらないものだから、ゴルフもできない。
腱板断裂と聞いて、私は手術はいいんじゃないかとも思いました。
リハビリ次第のところもあるけど、以前より動きが良くなって、ゴルフが楽しめるようになるかもしれないから。
ただ一つ、手術が微妙な点もあった。
それは・・・・たった3カ月で治して欲しいという依頼だったことです。
たった3カ月で、一年治らなかった肩を治す
その患者さんは、春から夏、とくにゴールデンウィークが、書き入れ時になるお仕事をしていたので、どうしても3か月で治して欲しかったのです。
しかし、一年間、20回もの治療を、ルート治療という、鍼灸の中でも最も刺激量の多い治療法で、治療してきて、治ってないのです。
私にルート治療以上のことができると、そう期待されての依頼・・・。
私は自信家ではないので、とにかく最初数回はうちで試して、効果が出そうもなかったら、他の先生を紹介しますから!とヘロヘロふにゃふにゃの姿勢でした。
私も通常、肩の治療をするとしたら、ルート治療でやります。
腱板断裂のリスクがあるのだかr、比較的浅く刺すルートが良さそうに思えるからです。
「ルート治療で治らなかった」ものを治すというのは、それ以上の何かが必要だけど、心当たりは一つだけ。栄養療法を組み合わせること。
その上、お医者さんが、腱板断裂を指摘していることから、「腱が断裂しかかってる部位は刺しちゃダメ」という要請が。
万一、切れかかった腱を鍼でぶちん!と切ってしまったら、3カ月で治るかどうか分からない。(というか責任問題)
というか、切れかかった腱の近くを刺すのだって嫌だ。
私たち、鍼灸師は、指と鍼先の感覚だけで患部を観察するだけ。皮膚の下がどうなってるか、ま~ったく見えない。それを手探りで施術するんだから、無茶だよ、無茶。
鍼程度で、腱なんか切れない(硬いだろうから)とは思うが、絶対切れないかどうかまでわからないじゃん!と思った。
というわけで、施術の方法が、かなり限られることになった。
腱については、鍼は刺さない。
腱の近くにも刺さない。
刺すのは、その周辺だけ。
こんな遠回りなやり方で、本当に治せる??
腕が上がる
治療方針は決まったが、やり方が間違ってたら、結果は出ない。
とにかく数回、試しでやってみることにしましょう、と。
ご本人の意思で手術しないとしても、病院でリハビリは継続してもらうようにもした。
スッと上がる右腕と、真上には程遠い左腕。
右腕と左腕を、頭の上でピタッとくっつけられるようには、なかなかならなかった。
でも、3か月かけて、少しずつ、左腕をあげられるようになってきた。
3カ月目のお医者さんの診察では、ゴルフの練習を再開してもいいと許可されるまでになった。
そもそも、肩の腱板断裂だけが問題というわけでもなかった。
首の問題、背中の筋肉の問題、肩甲骨の問題、それらが組み合わさることで生じる問題と、肩以外に4つも問題があった。
肩が肩だけでトラブルを起こすということは、私が思うにあまりない。
だから、腱板断裂している「場所以外」を治療してみようと思った。
腱が完全断裂しているのでなかったら、周辺から整えるだけで、弱った腱が強化されると思った。
何より、ルート治療で治らなかった原因は、ルート治療が間違ってたわけじゃなく、どうやらご本人の体質にもありそうで・・・。
栄養療法
この患者さんは虚弱体質で、ゴルフが趣味とは言っても、それまでの半生、運動からは最も遠い人だった。
身体が弱くて、運動できなかったのだ。とくに走ったりできない事情があった。
だから、社会人になって、ゴルフと出会って、これが「はじめての運動体験」だったから、ゴルフが本人にとってかけがえのない趣味になっていた。
虚弱体質で、しかも非常に華奢な女性。
この腱板断裂以前にも、さまざまな健康上の問題と戦ってきた。線維筋痛症で痛みに苦しみ、お腹は消化力が弱く、下痢と便秘を繰り返す体質。栄養を摂っても、筋肉がつきにくい身体。
でも、そんな苦労を重ねてきた分、「健康に関しては常に本気」の構えができている人だった。
3か月でどうしても治さなくてはならない事情もあり、栄養療法には、とにかく最初から本気で取り組んでくれた。
腱はタンパク質でできてる。
腱が切れかかっているのは、腱がもろいからだ。
だとしたら、腱を強くするように、プロテインをしっかり飲んでもらうのがいい。
タンパク質の合成を助ける、ビタミンB群やミネラルは欠かせない。
3カ月間、フルマックスの栄養療法と、毎週最大限の鍼灸治療。
肩が治り、ゴルフも再開でき、仕事もできて、ご本人とってご満足いただける結果になったことも、私は嬉しいけれど、もう一つ。
鍼灸+栄養療法をフルマックスでやることへの、確信が掴めたことは大きかったです。
たった3カ月で、手術が必要な腱板断裂が、ここまで治せる。
手術しなくても治せるような、整形外科的疾患は、他にもあるかもしれない・・・。
手術につきものの癒着
子どもの頃、私は鼠径ヘルニアと盲腸を、3歳、12歳で手術を受けました。
鼠径ヘルニアは、私が子どもだったからか、その後もどうということはなかった気がするけれど、盲腸はその後30年過ぎたのに、いまだに調子が悪いときがあります。
何とも言えず、手術痕らへんがシクシク痛むときがあるのです。
ちょっと前に、病院でCTを撮ってもらったら、腹膜の内と外が癒着していたことが分かりました。
開腹手術をすると、かならず癒着が生じるという。
それは仕方のないことではあるけれど、できるだけ癒着は起こさない方がいいのは間違いない。だから、最近は心臓の手術でも、できるだけ、開腹せずに、カテーテル手術を行うようになってきています。
身体を傷つけるのは、最小限がいいのです。
最小限の手術
そういう意味で、鍼灸治療はまさに「最小限の手術」といっていい。
通常の手術で、癒着が生じる可能性が100だとしたら、鍼灸はせいぜい1くらいだろう。
腱板断裂を手術で治すとして、100の癒着が生まれるとする。
鍼灸は、3か月間4~5回施術するので、多く見積もって15回。1の癒着×15回=15の癒着だ。
100と15なら、15の方がずっと良い。
しかも、15の癒着と言っても、1回には1の癒着である。
たった1の癒着なら、一週間で自然治癒している可能性が十分ある。
手術に比べ、鍼灸で出来る癒着は、100:0 に近い。
そもそも、麻酔を使わない鍼灸のリスクは、手術に比べて、とても低い。
そこに癒着の問題を考え合わせると、鍼灸のメリットは際立つ。
私は鍼灸+栄養療法の可能性を信じて、これから先も「最大限」の治療をしていこう。
それを当院の方針にしようと、気持ちを固めた。
初診が変わった
初診は問診含めて2時間。
100分は集中して施術できる。
最大限で、これくらいできるとしたら、30分ならこれくらい、60分ならこれくらい、90分ならこれくらい、と分かる。
痛いのが苦手な人なら、30分コースにして、回数を重ねればいいし、痛いのを我慢しても、それこそ3カ月で治したいとなれば、90分コースにして、毎週来てもらったって良い。
栄養療法でしっかり栄養が摂れていれば、細胞新生で、新しい細胞がどんどんできるし、早く治るだろう。
こうして、初診が変わったことで、院の方針も変わった。
一日も早く治すことにコミットする鍼灸院。
毎回、最大限の治療をする鍼灸院へ。
最短、最速で治すためには、患者さんにも最初から本気で栄養療法にも取り組んでもらわなくてはならない。
「ゆっくり治せればいいです」という方は、このご時世そんなに多くはないのだから。
3か月…というと、ちょっとライザップみたいだなと思った。
ライザップを考えても、人間が集中して、本気で頑張れるとしたら、3か月くらいのものなのかもしれない。
このやり方は、私が思う以上に、理にかなっていることなのかもしれない。
ダイエットも人生を変えるけど、病気が治る、痛みがとれることに勝る喜びはないのだから。
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お目をとめていただき、ありがとうございました。
PROFILE
山崎 美穂 やまさきみほ
鍼灸師(国家資格 はり師+きゅう師)
大阪の女性鍼灸師
子どもの頃、仕事と主婦業で忙しい母親を見て、「忙しくても通い続けられる治療院があったらな」と思ったのが、開院の動機です。
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